国際交流会議アジアの未来という会議の議論の深さに私は驚かされるばかりだった。リアルタイムで動くアジア諸国の重要な意見、主張を実際にこの耳で聞くという充実した2日間だった。
話し合われた内容は多岐にわたる。その中で、最も私にとって興味深かった内容はこの国際会議のメインタイトルでもある「新たな経済圏」という部分だった。
当初、私は東南アジア諸国のそれぞれの立ち位置、更に彼らがアジアを国際社会という地図の中でどのように位置づけようとしているのかということをこの会議における私の問題意識として持って、この会議に臨んだ。しかし、今回参加して私は、当初と違い、これからのアジア共同体の位置づけとその内部での日本の役割という視点に着目した意見を得ることが出来た。我々は、アジアの一員なのである。
アジア共同体という認識は、アジア諸国の中で既に出来上がっている概念である。EU、NAFTAなどが経済単位として台頭している現在、新興工業国集団として注目されている東アジア・東南アジアには、個々の国としての競争力は非常に小さなものであると言っていい。しかしながら、資源・労働力の面において、これらの地域に明らかな優位性があるのも確かである。そこで、アジア諸国が構想したのが共同体による経済的結合である。この共同体は個々の多様性を特徴とし、貿易による結合でアジアの成長拠点として台頭したいと考えている。少なくともここまではアジア全体のコンセンサスと言える。
しかし、ここで共有した概念の中に一つの問題が浮上してきた。それぞれの国の思惑である。現在、アジア共同体としてあげられているグループはASEAN+3、ASEAN+6、TPP、APECなどである。それぞれが国益を最大化するための連結である以上アジア共同体として様々あげられたグループは重要な意味合いを持ち、それは容易に統合できない。一つのグループに決めることも、全てのグループに属している国で共同体を作ることも困難なのだ。
もし、この点において合意が形成されず、共同体構想が各々の主張によって動き始めた時それら一つ一つの力は非常に弱いものとなるうえ、貿易の諸手続きによっては2つの貿易グループの間での統合が難しくなる場合もある。本来の目的と合致する共同体を作り上げることは困難になるだろう。
ここにおいて、日本のアジアにおける立ち位置が重要であることが解ってくる。リー・クアンユー・シンガポール顧問相の対談の際、リー顧問相は、小国としての義務について言及された。現在、アジアでは中国の影響力が高まっておりそれはこの国際会議の中でもたびたび感じることが出来た。ラオスのブアソン・ブパワン首相の講演が特にそれを示していたと思う。日本は、アジア共同体の中で大国としてトップに座ることを望んではならない。現在NDC(newly decline country)と表現されるほどの日本の現状を見れば十分にその現実には気づかされるはずである。
では、日本はどのような役割があるからアジア共同体の一員として必要とされているのだろうか。日本が、アジア共同体の重要なアクターの一つであることは確かである。日本は、これまで作り上げた各国との貿易網、繋がり、国際的発言力、高度な技術そして何よりアジアに台頭する中国と他の国々の間におけるバランサーとして重要な役割を担っているのではないか。先進国と名のつく我々には、アジア共同体の協働を潤滑に進めるという役割が求められていると考える。
ここで、私が想像するアジア地域の未来がある。私は、アジアがアジア共同体として国際社会で台頭するためには、なるべく多くの国を取り込んだ、東アジア、東南アジアによって構成される共同体を作らなければならないということだと考える。勿論、アジア諸国と緊密なつながりを持っているアメリカ合衆国やオーストラリアを共同体構成要因として考える必要は十分にあるが、それはあくまで繋がりの強い重要な関係国というだけであり、アジア共同体とはアジア諸国で作るからこそ重要なのではないか。アジアの、多様だが、多くの共通点も同時に備えている文化。諸国の強化分野での連携が他の共同体にはない強みを生み出すのではないか。
アジアはこれから先の未来において、各国の利害を損なわない形で共同体構想についての合意を形成する必要がある。しかし、何よりもアジア諸国が忘れてはならないのが、共同体形成のためならば、少々の挑戦を行う必要があるということである。その挑戦を補佐する役割が日本には求められていると私は考える。
今回の会議において、私はアジア諸国の挑戦を見た。様々な政策が提案される様は、国際政治という巨大で複雑な蠢きを目の前で早送りで見ているかのようだった。持続可能な発展を目指すアジアにおいて、日本は今後どのように貢献していくのだろうか。我々の「アジアの一員としての責任」を強く意識させられる国際会議であり、そのような場所にひと時でも参加させて頂けたことに深く感謝したいと思う。